le 8 aout, 2021
駿台 化学 単元別 共通テスト 第20問
「ダニエル型電池の起電力」
<解説の解説>
まず,教科書の該当ページを開いてみよう。
東書 化学基礎 p-185 , 啓林館 化学基礎 p-206
東書 化学 p-114 など
a. 標準電極電位 E°[V] (vs SHE) の意味
1mol/L の金属イオンMm+ 水溶液とその金属Mの組み合わせの半電池
Mm+|M と,標準水素電極 H+(pH=1)|H2(1atm)を,塩橋または素焼き板で
仕切り,両電極間の電位を内部抵抗の大きな電圧計で測定したとするとき
の電位(V)を,標準水素電極の電位0Vを基準として表したもの。
これは酸化剤Mm+ の電子の受け取りやすさ(酸化力)
Mm+ + me- → M (還元反応) の順になるから,
イオン化傾向すなわち還元剤Mの電子の出しやすさ(還元力)
M → Mm+ + me- (酸化反応) の逆順になる。
※ 酸化反応 = 酸化される反応 = 還元剤が酸化される = 酸化数が増加
還元反応 = 還元される反応 = 酸化剤が還元される = 酸化数が減少
b. ダニエル型電池
2種の金属の半電池を組み合わせた電池。すなわち
(-)M1|M(m1)+||M(m2)+|M2(+)
を一般に「ダニエル型電池」という。
※ m1,m2はイオンの価数とする。
※ イオン化傾向の大きい方 M1 が負極(-)となる。
(-) M1 → Mm1+ + (m1)e- (酸化反応)
(+) Mm2+ + (m2)e- → M2 (還元反応)
※ どのような電池でも放電反応において,
負極で酸化反応, 正極で還元反応となる。
※ 特に亜鉛Znと銅Cuの組み合わせのとき,「ダニエル電池」という。
c. 「ネルンスト式」 個々の電極電位 E [V] (vs SHE)
イオン濃度を考慮して,次のように表される
E = E°+ (0.060/m) log [Mm+]
※ ただし,mはイオンの価数とする。
例: EAg = E゜Ag + (0.060/1) log [Ag+]
ECu = E゜Cu + (0.060/2) log [Cu2+]
EZn = E゜Zn + (0.060/2) log [Zn2+]
EAl = E゜Al + (0.060/3) log [Al3+]
※ イオン濃度が1.0 mol/Lのとき,log 1 = 0 であるから,
E = E°となる。
※ イオン濃度が0.1 mol/Lのとき, log 10-1= -1log 10 = - 1
であるから,
1価のイオンなら
(0.060/1)log 10-1= - 0.060 v ∴ E°から0.060 v 下がる
2価のイオンなら
(0.060/2)log 10-1= - 0.030 v ∴ E°から0.030 v 下がる
※ 本問では E°を与えず,表の電位差から考えさせる。
d. 起電力 ⊿E = E+ - E- 個々の電極電位の差
例: イオン濃度がいずれも1.0 mol/Lの
ダニエル電池 (-) Zn | Zn2+ || Cu2+ | Cu (+) の場合
(+) ECu = E゜Cu + (0.060/2) log [Cu2+]
= + 0.34 + 0
= + 0.34 V
(-) EZn = E゜Zn + (0.060/2) log [Zn2+]
= - 0.76 + 0
= - 0.76 V
起電力は
⊿E = ECu - EZn = + 0.34 - (-0.76) = 1.10 V
元の起電力
例: 負極のイオン濃度 [Zn2+] = 10-1mol/Lとした
ダニエル電池の場合
(+) ECu = E゜Cu + (0.060/2) log [Cu2+]
= + 0.34 + 0
= + 0.34 V
(-) EZn = E゜Zn + (0.060/2) log [Zn2+]
= - 0.76 + 0.030 log 10-1
= - 0.76 - 0.030
= - 0.79 V
起電力は
⊿E = ECu - EZn = + 0.34 - (-0.79) = 1.13 V
亜鉛の電位が0.03 V下がったので,
電位差は大きくなった。
※ 問題ではE°は与えられていないので,
表から元の起電力を求め,
イオンが2価のときは濃度が10-1mol/Lになると,
電極電位が0.03V下がることに気が付く必要がある。
例: 正極のイオン濃度 [Cu2+] = 10-1mol/Lとした
ダニエル電池の場合
(+) ECu = E゜Cu + (0.060/2) log [Cu2+]
= + 0.34 + 0.030 log 10-1
= + 0.34 - 0.030
= + 0.31 V
(-) EZn = E゜Zn + (0.060/2) log [Zn2+]
= - 0.76 + 0
= - 0.76 V
起電力は
⊿E = ECu - EZn = + 0.31 - (-0.76) = 1.07 V
銅の電位が0.03 V下がったので,
電位差は小さくなった。
例: イオン濃度がいずれも1.0mol/Lの
「ダニエル型電池」 (-) Zn | Zn2+ || Ag+ | Ag (+) の場合
(+) EAg = E゜Ag + (0.060/1) log [Ag+]
= + 0.80 + 0
= + 0.80 V
(-) EZn = E゜Zn + (0.060/2) log [Zn2+]
= - 0.76 + 0
= - 0.76 V
起電力は
⊿E = EAg - EZn = + 0.80 - (-0.76)= 1.56 V
元の起電力
例: 正極のイオン濃度[Ag+] = 10-1mol/Lとした
「ダニエル型電池」 (-) Zn |Zn2+ || Ag+ | Ag (+) の場合
(+) EAg = E゜Ag + (0.060/1) log [Ag+]
= + 0.80 + 0.060 log 10-1
= + 0.80 - 0.060
= + 0.74 V
(-) EZn = E゜Zn + (0.060/2) log [Zn2+]
= - 0.76 + 0
= - 0.76 V
起電力は
⊿E = EAg - EZn = + 0.74 - (-0.76) = 1.50 V
銀の電位が0.06 V下がったので
電位差は小さくなった。
※ 問題ではE°は与えられていないので,表から元の
起電力を求め,Ag+ は 1価なので,濃度が10-1mol/Lに
なると,電極電位が0.06V下がることに気が付く必要がある。
問3について
※ 表にない金属Niの半電池を用いたとき,E°は与えられていないが,
ネルンスト式を用いて上の例と同様に表現した場合,次のようになる。
例: イオン濃度がいずれも1.0mol/Lの
「ダニエル型電池」 (-) Ni | Ni2+ || Cu2+ | Cu (+) の場合
(+) ECu = E゜Cu + (0.060/2) log [Cu2+]
= + 0.34 + 0
= + 0.34 V
(-) ENi = E゜Ni + (0.060/2) log [Ni2+]
= - 0.26 + 0
= - 0.26 V
起電力は ⊿E = ECu - ENi = + 0.34 - (-0.26)
= 0.60 V
これが与えられている。
例: イオン濃度がいずれも = 10-1mol/Lとした
「ダニエル型電池」 (-) Ni | Ni2+ || Ag+ | Ag (+) の場合
(+) EAg = E゜Ag + (0.060/1) log [Ag+]
= + 0.80 + 0.060 log 10-1
= + 0.80 - 0.060
= + 0.74 V
(-) ENi = E゜Ni + (0.060/2) log [Ni2+]
= - 0.26 + 0.030 log 10-1
= - 0.26 - 0.030
= - 0.29 V
起電力は ⊿E = EAg - ENi = + 0.74 - (-0.29)
= 1.03 V
銀の電位が0.06 V下がり,
ニッケルも0.03 V下がる。
※ 銀と銅のE°の差が0.46 Vであること,銅とニッケルのE°の差が
0.60 Vであることから,銀とニッケルのE°の差が1.06 Vとなり,
そこから銀を0.06下げ,ニッケルを0.03下げると,
実質0.03V起電力は低下するから,1.06-0.03=1.03Vとなる。
※ 自分で図を書いて考えてみましょう。
※ 当然のことながら,溶液を濃くすると,電極電位 E は E°より上がる。
※ 一般には,
「(+)極の溶液を濃くし,(-)極の溶液を薄くすると,起電力が増加する。」
ことを問うことが多い。